飛んでいる傘のインスタレーション ー 表参道・スパイラル

あたかも傘が鳥のように群れをなして飛んでいる姿が表現されていました。物体に心を注入する魔法が、ここにある傘たちにかけられたかのような、おとぎ話、あるいは、アニメのような世界です。

傘が飛んでいる下にはお花畑のようにたくさんの傘が立てられています。

ここは東京メトロ表参道駅のB1出口のすぐ前にある複合文化施設「スパイラル」です。日本各地で受注会を開き、そこでオーダーを受けてから傘を作り販売する「イイダ傘店」の創業20周年を記念する展覧会「わたり」展が開かれていました。
そして、スパイラル1階の一番奥にある吹き抜けのスパイラルガーデンに展開されていた、さきほどの作品が「わたり」でした。たくさんの職人さんたちの手をわたって作られた傘。傘を翳す(かざす)人の手にわたり、直して次の人の手にわたる様子を「旅する鳥のように」表現したということです。

会場入り口近くには縦長の「ブルーベリーの布」が天井からぶら下げられ、その生地を使った傘と並べられていました。

傘の骨と骨の間に貼り付けられる布地を「小間」と呼びます。壁に貼り付けられていたのは朱子縞の布。傘のテキスタイルは、傘になったときにきれいにつながり、さらに小間をとるのに無駄な部分ができるだけ出ないように上下の区別なく模様を描くのが秘訣ということです。二等辺三角形のような小間に裁断されますが、よく見ると傘の丸みを出すために三角形は少し膨らんでいます。なので裁断した小間と小間の間には切れ端が残っています。
隣には傘を作る様子が記録された壁掛けの端末がありました。そこにも人が集まっていました。



さらに奥にはテキスタイルのサンプルがありました。それぞれの布を開けてみると……



デザインが説明されていました。左から「シロクマ」「トウモロコシ」「ブルーベリー」。「シロクマ」は動物の白熊というよりは、かき氷のシロクマ。氷のシャリシャリ感と中に入っているみかん、パイナップルなどをイメージしたそうです。

スパイラルは2階のショップ、スパイラルマーケットへ階段を上っていきます。そこには複数のテキスタイルが天井から吊るされていました。デザインを重ね合わせ、イメージする空間だということです。

そして、傘のアイデアを作り出す部屋を再現していました。棚は20年前から使っているもので、アトリエを移転するたびに持ってきたものだそうです。引き出しを開けてもいいし、茶色い棚の本も読んでいいということで、楽しい空間になっていました。
イイダ傘店の「わたり」展は当初、9月3日から15日の予定でしたが、23日まで延長されました。
スパイラルでは、例えば2023年6月~7月にはファッションブランドのアンリアレイジがパリコレクションに出品した作品を展示したり、2020年7月~8月にはコレクターの所蔵作品を公開した OKETA COLLECTION で現代アーティスト名和晃平の透明な球体で鹿を表現した PixCell – Deer が展示されたりしていました。東京で美術館やギャラリーを散策するのであれば、スパイラルも候補リストに加えチェックするといいかもしれません。
(2025年9月23日)